08透析脊椎症
前回までの連載で肩を含めた上肢の透析アミロイド症について解説してきました。これらは全て私のクリニックで日帰り手術をしている疾患ですが、今回は専門医に紹介し、場合によっては入院した上で手術が必要となる透析脊椎症について解説いたします。
骨型透析脊椎症
透析脊椎症というと、昔からよく知られているのが破壊性脊椎関節症(DSA:destructive spondyoarthropathy)です。写真1のように単純レントゲンでチェックすると脊椎が変形、破壊されているのが一目瞭然です。同じ部位のMRIですが、脊柱管の中を縦に走っている白い組織が脊椎神経で、その周囲に黒い脳脊椎液があり、脊椎神経を保護しています。脊椎が高度に破壊され変形し、前方から脊椎神経を圧迫しています。脊椎神経は椎骨の圧迫で曲がりくねっているのがわかります。このような状態では上半身の痛み、場合によっては歩行障害が起きていてもおかしくないような画像です。
骨の変形する理由は何かというと 副甲状腺ホルモンの上昇により骨の脱灰がおこり、骨がもろくなり変形しやすい環境下で、アミロイド症が加わると骨の組織にアミロイドが沈着し骨の変形がますます進みます。この骨型が非常に多かったのですが、今は副甲状腺ホルモンを抑える良い薬がたくさんでてきていますし、透析を管理されている先生方が副甲状腺のチェックをしっかりするようになりましたので、骨が変形するタイプは減っています。
写真1
靭帯型透析脊椎症
骨型の減少に対し、最近増加傾向にあるのは、骨の配列は保たれているものの脊柱管の中にアミロイドが沈着しているという靭帯型です。
写真2は典型的なアミロイド沈着型の単純レントゲンとMRIです。骨の変形はあまりないのですがMRIを撮ってみますと脊柱管内で脊椎神経の前方にある靭帯が厚くなり、神経を圧迫しているのがわかります。
写真2
手術
透析患者さんで脊椎症が疑われる時というのは具体的にどういう場合かといいますと、腰椎に関していえば坐骨神経痛が典型的です。お尻から足の外側にしびれや痛みが出るというのが坐骨神経痛の症状です。
歩行の途中でしびれがひどくなって、休まなければならないということもあります。このような間欠跛行は血流障害のある時でも認められますが、脊椎症が原因の時には、腰椎前屈位でしびれが軽快する姿勢性要素を認めるのが特徴です。頚椎では上肢のしびれや肩の疼痛等がでますが、立位で頚椎に頭蓋骨の荷重がかかることより、早朝より夕方に症状がひどくなる傾向があります。
このような症状がある場合はまず脊椎のレントゲンを撮影しますが、骨の変形がなくても、靭帯が厚くなって脊柱管の狭窄が見られる場合があるので、脊椎のMRIは必ず撮影する必要があります。脊椎に関していえばMRIは非常に有力な診断のツールですので、透析脊椎症が疑われる時、MRI撮影は必須の検査です。
手術適応
頚椎症は、上肢に症状がみられることが多いので、手根管症候群や肩のアミロイド沈着と鑑別する必要があります。これらの疾患が原因ではなく、頚椎MRIで脊髄の圧迫が確認され、箸が使いにくい、字がうまく書けないなど、上肢の運動障害、巧緻運動障害を認めた場合や、上肢の筋力低下、筋萎縮、歩行障害がある場合は手術の必要があるといわれています。
腰椎症では、薬物療法やコルセットによる装具療法等の保存療法で管理できない腰痛、下肢痛、歩行障害、麻痺が出現したら手術適応となります。ただし腰椎症の手術では、除圧術や固定術を行った隣接椎間の変性が、術後急速に進行し、新たに狭窄やすべりが発症することが少なくありません。腰椎症の手術を患者さんに説明する時は、術後の再発のことを話しておく必要があるかと思います。
最後に
次回は透析アミロイド症のまとめの話をして、この連載の最終回にする予定です。
透析患者さんが脊椎症と診断がついた時にどうしたらよいかという質問を受けます。
まず、レントゲン写真とMRI等の画像の資料を持参させ、脊椎外科を専門とする先生の外来を受診させる必要があります。その病院に透析施設が併設されていれば、手術が必要となった時、その病院で手術を受けることも可能です。ただ、脊椎外科の専門医がいて、透析施設のある病院の数はそれほど多くないのが現状です。