06肘部管症候群
透析医療関係者の間で手根管症候群は、よく知られていますが、今回とりあげる肘部管症候群はあまり知られていません。手根管症候群と同様、肘部管症候群も手指のしびれを主症状とするため、手指のしびれは手根管症候群と決めつける事なく、肘部管症候群の存在も念頭に置き、日常の診療にあたる必要があります。
図1のように尺側手根屈筋の尺骨頭と上腕頭を結ぶ繊維性靭帯をOsborne 靭帯といいますが、この靭帯にアミロイドが沈着し尺骨神経を圧迫するのが透析患者の肘部管症候群です。
尺骨神経が圧迫されるため、環指の尺側および小指のしびれ、疼痛などの症状がでます。また、運動神経の症状としては小指と環指の2番目の関節(近位指節間関節)が伸ばしにくく、いわゆる鷲手変形を呈することがあります。
手根管症候群では母指から環指(母指側)のしびれが特徴的ですが、肘部管症候群では小指から環指のしびれがみられます。
図1 右肘関節付近における尺骨神経の走行
手術適応
しびれが日常生活に差し障るものや小指、環指の握力低下のあるもの、鷲手変形のあるものは手術を勧めています。手根管症候群では症状が進行すると夜間の疼痛で覚醒するようなことがみられますが、肘部管症候群ではそのようなことはまれです。
手術概要
非透析患者の肘部管症候群では尺骨肘頭内側縁あるいは、上腕骨内側縁に骨隆起が形成され尺骨神経が下方より押し上げられると考えられています。この骨隆起とOsborne 靭帯にはさまれた尺骨神経が圧迫を受け、肘部管症候群が発現します。このような場合、尺骨神経の除圧のために尺骨神経の剥離とともに、上腕骨内側上顆の切除も必要となります。
一方、透析患者ではOsborne 靭帯にアミロイドが沈着し、肥厚するために尺骨神経が圧迫されると考えられています。以上より透析患者の肘部管症候群に対する手術はOsborne 靭帯切開だけで十分に尺骨神経の除圧可能です。
Osborne 靭帯切開
Osborne 靭帯切開について解説します。図2に手術時の模式図を示します。アミロイドの沈着した筋膜(Osborne 靭帯)を切開します。写真1は尺骨神経(ひもがかかっている)を見つけだし、それを圧迫している筋膜をハサミで切開しているところです。写真2は筋膜切開後の尺骨神経です。
術後、ひどいしびれはすぐに軽快しますが、しびれが完全に消失するのは手根管症候群に比べやや時間がかかります。
図2 肘部管の切離
写真1
写真2
肘部管症候群は一般的に手根管症候群や肩関節症の手術を経験された患者さんに発症することがほとんどです。しかし、手根管症候群の手術も肩の手術もしたことのない患者さんが、小指のしびれで受診され、肘部管症候群の診断で手術を行い症状が消失しました。その方に話を聞きましたら、趣味がパチンコで、丸いハンドルを捻ると指のしびれが、ひどくなっていたそうです。手を外側に捻る動作というのが肘の筋膜(Osborne 靭帯)の尺骨神経への圧迫を強めます。患者さんが小指と環指がちょっと痺れて、パチンコをやるとその症状が悪化するようなら肘部管症候群を疑って下さい。