05ばね指
ばね指
前回までの連載で、手根管症候群、肩関節症を解説してきましたが、今回はばね指をとりあげます。私のクリニックの手術件数はこの三疾患が上位を占めていますが、ばね指はその中でも一番多く、透析関節症の中で最もよくみられる疾患です。
ばね指の症状
図1 手の屈筋腱と腱鞘
手の指を曲げる腱を屈筋腱と呼び、その腱を骨に固定する結合組織を腱鞘と呼びます(図1参照)。この腱鞘に、アミロイドが沈着し肥厚すると、屈筋腱の動きがひっかかるようになり、指の屈曲が困難となり、伸展時にある程度、力を入れないと、伸展不能となる場合があります。腱鞘の抵抗が強いために、指を伸ばす時にばねがはねる様に指が伸びることがあり、このような現象を弾撥現象とよびます。そして弾撥現象を起こす様になった指をばね指(弾撥指 snapping finger)といいます。
症状は弾撥現象の他に指の根部の疼痛、指が屈曲できず手のひらにつかない、指がまっすぐにならず第二関節(PIP関節)が曲がっているなどがあります(写真参照)。
透析患者さんでない方は、腱鞘炎が原因となるため、中年女性に多発し使用頻度の高い親指が多く、透析患者さんでは腱鞘に対するアミロイドの沈着が原因のため長期透析の方に多く、どの指でも発症し、同時に何本かの指に発症する場合があります。
他の透析アミロイドーシスと同様、ばね指も症状が軽快することがないため、指の屈曲障害が日常生活に差し障ったり、弾撥現象がみられる様なら手術適応と考えます。第二関節が屈曲している場合は、ばね指の手術をしない限りまっすぐにならず、屈曲が進行します。長期に指の屈曲を放置すると手術後に伸展しない場合があるので、たとえ弾撥現象がなくとも早めに手術をする必要があります。手指の場合、筋肉量が少ないため指が曲がらない状態を放置すると、ばね指の手術をして腱鞘の圧迫を解除しても、筋力低下で手指の屈曲が十分に回復しないことがあります。筋力が低下する前に手術をすることが大切です。
写真 第4指のPIP関節の屈曲
手指の腱鞘の構造
ばね指の手術を理解するためには指の解剖を理解することが必要です。
手指は、MP関節(中手指節関節)、PIP関節(近位指節間関節)、DIP関節(遠位指節間関節)の3つの関節より構成されています(図2参照)。
屈筋腱は、浅および深指屈筋腱の2種類があり、これらをとり巻く腱鞘はMP関節のやや中枢に始まり、指屈筋腱とともに、末梢へのびています。この腱鞘には繊維が斜めに交叉し網目状を呈する十字部C(pars cruciformis)とよばれる薄い部位と、繊維が厚く指屈曲腱の前方を輪状にとり巻くように横走し腱の両側の指骨または掌側板に停止する輪状部A(pars annularis)とよばれる部位にわけられます。輪状部は指が屈曲する時、指屈筋腱が指骨より浮き上がらぬように保持し、指屈筋腱が輪状部内を滑るような状態となります。いわば、輪状部は指屈筋腱に対する滑車の様な働きするので滑車(pulley)ともよばれます。十字部および輪状部は存在する部位によって番号がつけられています(図3参照)。
図2 手指の関節
図3 手指の腱鞘
ばね指の手術
ばね指は輪状部の腱鞘にアミロイド沈着することにより肥厚し、腱鞘の中を指屈筋腱が自由に滑走できなくなることにより発症します。
手術により弾撥現象をおこしている部位の腱鞘を切開すれば通過障害は解除されます。A1靱帯が弾撥現象の責任病変となっている事が多く、A1靱帯の切開のみで弾撥現象が解消されることがほとんどです。
ばね指の手術の時に腱鞘を切開して問題ありませんかという質問をよく受けます。
図3のように屈筋腱にはいくつも腱鞘があるので、1,2ヶ所の腱鞘を切ってもそれによって屈筋腱が指骨より逸脱することはありません。