透析アミロイドーシスのすべて

04肩関節症の症状と治療

透析アミロイドーシスによる肩関節症の特徴

透析アミロイドーシスの整形外科合併症として、手根管症候群やばね指は患者さんや透析医療関係者に広く認識されていますが、肩関節症は意外と知られていません。当院を受診される患者さんは、肩の痛みのため整形外科を受診し、肩のレントゲンを撮影し、骨に異常がないので、湿布と鎮痛剤を処方されているという方が多くみられます。このような患者さんのほとんどが、透析アミロイド症による肩関節症ですが、その症状と治療について解説いたします。

表1に透析アミロイドーシスによる肩関節の特徴について示します。透析患者さんの肩関節痛というのは非常に特徴的です。一般的な関節症は動かしたときに痛みがあるということが多いのですが、透析患者さんの肩の痛みというのは横になると痛みがひどくなります。起き上がったり座ったりすると肩の痛みは軽くなります。どういうときに症状がでるかといいますと、就寝中夜明けに肩が痛くて目が覚める、もしくは透析の後半3時間目とか4時間目に横になっていると肩が痛くて起き上がってしまうというものです。透析の後半は血圧が下がる方が多いですから、肩が痛くても起き上がることができず、肩の痛みのために透析を3時間くらいで中断する方もいらっしゃいます。

表1 透析患者の肩関節症
  • ① 臥位で肩部痛が増強するが、立位あるいは座位となると軽減あるいは消失する。
  • ② 肩関節にさまざまな運動制限や関節拘縮が存在する。
  • ③ 烏口肩峰靱帯部に圧痛が存在する。

除外診断……頚椎症


図1 矢印が烏口肩峰靭帯

このような臥位で増強し、立位や座位で軽快する肩痛がなぜ起こるかというと、透析患者さんの肩痛は烏口突起と肩峰に付着している烏口肩峰靭帯(うこうけんぽうじんたい)にアミロイドが沈着することにより発症します(図1)。すなわち肥厚した烏口肩峰靭帯が、上腕骨頭を圧迫して肩痛が発生するわけですが、立位や座位になると腕の重さで上腕骨頭が下がり、圧迫がゆるむため肩痛が軽快するわけです。

このような方は肩関節の運動制限があるため、腕が肩より上に上がらないということもみられます。3番目の烏口肩峰靭帯の痛みというのは肩の前方の痛みです。

頚椎に変形がある人は肩痛を発症することがあります。頚椎は頭を支えていますので、頚椎が原因でおこる肩の痛みというのは、どちらかというと起きている時に肩の痛みが増強します。臥位で増強する肩の痛みというのは、肩にアミロイドが沈着している可能性が強いです。どのような姿勢で症状がおきるかを問診することにより、頚椎症によるものか、肩のアミロイド沈着によるものか見分けがつきます。

烏口肩峰靭帯切除術

治療は烏口肩峰靭帯の切除手術を行いますが、局所麻酔下に写真1のような手根管開放術で使用する内視鏡のシステムで施行可能です。手根管開放術との違いは靭帯切除用の耳鼻科用鋭匙鉗子です。当院では全例日帰り手術で施行しております。

写真2は手術時のものです。腕の付け根を2〜3センチ切り、烏口肩峰靭帯のところまで外套管を挿入し、内視鏡で靭帯を観察しつつ、烏口肩峰靭帯を切除します。

術後、圧迫の沈子を翌日の透析終了後4時間までしていますが、手術の翌々日から、肩のストレッチをしてもらっています。手術後はほとんどの症例で肩痛が軽快し、肩関節の動きが改善されます。

次回はばね指の解説をいたします。

手術器具
写真1 手術器具(上から)外套管、関節鏡、耳鼻科用鋭匙鉗子
右肩の手術
写真2 右肩の手術

一口メモ

「肩の靭帯を切って大丈夫ですか?」と患者さんから質問を受けることがあります。烏口肩峰靭帯の役割は上腕骨頭の前方への脱臼防止です。この靭帯を切って脱臼するような人は、野球のピッチャーとかテニスの選手のような人です。野球のピッチングとかテニスのサーブを思い切って出すという動作さえしなければ、脱臼することはありません。実際私は肩の手術を600例以上やっていますが、脱臼した患者さんは一人もいらっしやいません。

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