透析アミロイドーシスのすべて

01透析アミロイドーシスとは

はじめに

はじめまして、森田弘之と申します。平成20年 8月に名古屋市内に森田シャントアミロイド治療クリニックを開設し、透析アミロイドーシスの日帰り手術を中心にしたクリニックの院長をしております。初対面の方に名刺を差し上げると、必ず怪訝な顔をされ、「何をされているのですか」と尋ねられます。また、透析関係の方には「維持透析もされているのですか」とか、「シャントの手術の方が忙しいのではないですか」と尋ねられます。「当院では維持透析もシャントの手術もせず、アミロイドの手術だけしております」と答えています。

透析アミロイドーシスというものが、透析患者さんや医療関係者に正しく理解され、当院の設立の目的である「透析アミロイドーシスに対する適切な時期に適切な治療を」ということの実現のため、この連載では、透析アミロイドーシスについて解説をしていきたいと思います。

透析アミロイドーシスの原因

長期透析患者さんの増加とともに透析アミロイドーシスによる合併症が問題になってきています。透析アミロイドーシスはどうして発症するのかということから考えていきたいと思います。

長期透析患者に手根管症候群が多いということをWarren先生が1975年に報告しています。これが透析アミロイドーシスの代表的な疾患である透析患者の手根管症候群は透析の合併症であるということを最初に報告したものです。

下条文武先生(現、新潟大学学長)は1985年にアミロイドの前駆蛋白はβ2-microglobuli(nβ2-m)であることを報告しました。β2-mというのは分子量11800の蛋白質で、おもにリンパ球系の細胞表面に存在します。細胞の崩壊に伴って一定量が血中に放出されています。この物質は腎臓の糸球体で濾過された後、大部分が尿細管で再吸収され分解されます。腎機能が低下するとこの分解が障害されるため、慢性腎不全の状態では血中のβ2-mの濃度が高くなります。透析導入の時点で透析患者さんの体内にはβ2-mが蓄積されています。分子量が1万を超える物質は透析では除去しきれず、長期透析の患者さんの体内にはさらに蓄積されます。

横手根靱帯
写真1 横手根靱帯

写真1は手根管症候群の患者さんの靭帯を染色したものです。アミロイド繊維の沈着した部位は赤く染色されます(写真左)。右の写真は同じ部位をβ2-mの免疫染色をしたものですが、β2-mの沈着した部分は茶色に染まります。赤い部位と茶色の部位が一致していることがわかります。このことからもアミロイドの前駆物質はβ2-mであることが理解できるかと思います。

このようなアミロイドの沈着は全身で起こり、透析アミロイドーシスが発症します。よく患者さんから「アミロイドーシスにならないようにするために気をつけることがありますか」という質問を受けます。β2-mはおもにリンパ球系の細胞表面に存在することから、その産生を抑制するために、リンパ球の活性化が起きないように透析液の清浄化や生体適合性の良い透析膜の使用が望まれます。またβ2-mの除去効率を高めるためには、高性能膜(highperformancemembrane)による血液透析や血液濾過透析を積極的に行い、さらに透析時間の延長や血流量を増加させることで十分な透析量を確保することが大切です。またβ2-mを吸着するカラム(リクセル)も開発されていますが、これは透析歴10年以上、手根管開放術の既往があることなどの保険適応条件があります。

アミロイドーシスの発症予防のためには、患者さんよりも医療を提供するサイドが透析条件を十分配慮する必要があります。

透析アミロイドーシスの症状

表1に厚生労働省のアミロイドーシスに関する調査研究斑の透析アミロイドーシスの診断基準を示します。主要症状は骨関節症状であることがわかります。当院での日帰り手術の3大疾患は手根管症候群、肩関節痛、弾撥指(ばね指)ですので、この診断基準の1、2、3の項目になります。表2に当院で患者さんに配布している問診表を示します。この中に1項目でも思い当たる症状があれば、透析アミロイドーシスの可能性があります。

透析アミロイド症の診断基準(案)
【臨床的所見】
〔主要症状〕
①多関節痛 肩関節痛、手関節痛、股・膝関節痛など
②手根管症候群 正中神経圧迫症状
③弾撥指 狭窄性腱鞘炎のための指関節屈筋運動障害
④透析脊椎症 破壊性脊椎関節症 頚椎と腰椎に好発する。
骨X線上椎間腔狭小化と骨破壊像がみられる。
椎体骨の骨棘形成反応は弱いか認められない。
脊椎管狭窄症 アミロイド沈着による脊椎管狭窄症状の出現
⑤骨嚢胞 骨X線嚢胞状透亮像、手根骨など
〔副症状〕
⑥骨折 大腿骨頸部骨折が多い
⑦虚血性腸炎 腹痛、下痢、下血
⑧その他 皮下腫瘤(amyloidoma)、尿路結石

表1 アミロイドーシス診療ガイドライン 2010
(厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 アミロイドーシスに関する調査研究班)一部抜粋

透析アミロイド症に関する問診票

透析アミロイド症とは長期透析をうけている方に合併する病気で、アミロイドという物質が骨・関節に沈着して、関節の痛みや運動制限などの障害を起こす病気です。下記の問診票にお答えいただき、「はい」が一つでもある方はスタッフにご相談ください。

透析アミロイド症の診断基準(案)

表2 透析アミロイド症に関する問診票

透析アミロイドーシスというと、指のしびれる手根管症候群や指のひっかかりがみられるばね指というのはよく知られています。確かにこの二つの疾患は当院での手術件数の1、2位を占めています。しかしそれ以外にも主要症状の多関節痛にあげられている、肩関節痛や手の甲の痛みの手関節痛、肘から小指にかけての痺れの出る肘部管症候群がアミロイドの沈着によって起こることは意外と知られていません。

今後は透析アミロイドーシスの疾患について、どのような症状があり、どのような治療が行われているか解説していきたいと思います。次回は透析アミロイドーシスの代表的疾患である手根管症候群について説明いたします。

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