主な手術

手根管症候群

 透析患者さんに一番早めに出やすい症状です。手のひらにある靭帯(横手根靭帯)にアミロイドが沈着、正中神経を圧迫し指のしびれとなってあらわれるのが手根管症候群です。  正中神経は親指から薬指の半分(親指側)の領域を支配しているので、その部分のしびれや痛みという症状がでます。長い間放置しておくと、親指の付け根の部分の筋肉が萎縮してきて、握力もかなり低下します。透析患者さんの手根管症候群は性差なく、男女同数です。
 糖尿病が原因で透析を導入された患者さんは、他の原因で透析導入された方に比べ、手根管症候群の発症が早いことが知られています。

症 状
  • 親指から薬指にかけてしびれる
  • 透析の後半に指がしびれる
  • 指のしびれで夜明けに目が覚める
  • 片手でペットボトルを開けるのに不自由を感じる
治 療
 手根管症候群というのは神経の圧迫症状なので、手が正座しているようなもの。手術はそれをくずす行為ともいえるでしょう。従来の手術は、手のひらの皮膚を切開して真下の靭帯を切り離すもので、術後の疼痛が強く、しばらく手が使えず、関節拘縮を起こす可能性もありました。しかし内視鏡手術は、手首の皮膚を2cm程度切り、そこから器具を挿入して横手根靭帯を切開するため、術後の合併症を起こすことなく、しっかりと靭帯を切除できます。しかも安全性が高く、術後の痛みも従来の手術に比べ軽く、ほとんどの症例で指のしびれは1週間以内に消失もしくは軽快します。しかし、しびれを我慢している期間が長ければ、術後しびれがなかなかとれません。握力は手術後、一時的に低下しますが3ヶ月ほどで回復してきます。
手根管症候群

症状が進行すると筋肉が萎縮し、
握力も低下。

手根管症候群

肩関節症

肩の痛み、手が上がらないなどの
症状が現れる

 烏口肩峰靭帯(うこうけんぽうじんたい)にアミロイドが沈着し、肩の痛みを起こしていると考えられています。透析患者さんの肩関節症は非常に特徴的です。  一般的な関節症は動かしたときに痛みが出ますが、透析患者さんの肩の痛みは、横になるとひどくなります。寝ていると痛くなり、起きると楽になる方は、透析アミロイド症を疑ってみましょう。

症 状
  • 肩関節が十分に動かず、手が上がらない
  • 夜明けに肩が痛くて目が覚める
  • 透析の後半3時間目・4時間目に横になっていると肩が痛くて寝ているのが苦痛
  • 横になると痛みがひどくなり、起き上がったり座ったりすると痛みが軽くなる
治 療

 局所麻酔で上腕の皮膚を2cm程度切り、内視鏡の器具を肩の方向に挿入し、烏口肩峰靭帯を切開します。ほとんどの方が、肩痛は手術直後より消失か軽快しています。  烏口肩峰靭帯の役割は、上腕骨頭の前方への脱臼防止です。ただし、野球のピッチングやテニスのサーブなど、激しい動作さえしなければ、脱臼することはまずありません。そのため、烏口肩峰靭帯は切開しても日常生活に支障はありません。

治療によって腕の可動域が広がった

ばね指

指の根元の帯にアミロイドが沈着して起こります。この帯を腱鞘(けんしょう)といいますが、厚くなるとその下を通っている屈筋腱が引っかかって、指が曲がりづらくなったり、曲げた後伸びなかったりという症状が起こります。
症 状
  • 指が曲がりづらい
  • 曲げた後伸びない

指の根元にアミロイドが沈着

治 療
 指の根部に針を刺し腱鞘を切開します。針を使用するため手に傷ができないという利点があり、しかも翌日の夕方から手を洗ったり、お風呂に入ることもできます。
 「指の根元を切って大丈夫ですか?」と聞かれますが、人間の指には3つの関節があり、ばね指で切開するのは3つのうちの1つで、切っても特に問題はありません。腱鞘は腱を骨に固定する役目を持ちますが、同様の働きを持つ部位が他にもあるからです。 ※診療日に処置が可能です。

肘部管症候群

 肘の内側をぶつけると、肘から小指、薬指にかけてしびれるという経験は誰にもあります。これは、肘の内部を走行している尺骨神経を打ち付けたために起きる症状ですが、こうした症状が慢性的に起きるのが肘部管症候群です。 尺骨神経は肘の部分を通過したあと、筋膜の下を通って小指と薬指に到達します。この筋膜にアミロイドが沈着して厚くなり、尺骨神経を圧迫し小指と薬指にしびれが出ます。肘部管症候群は一般的に手根管症候群や肩関節症の手術を経験された方に多く見られます。

症 状
肘の内側(ぶつけるとしびれがはしる部分)より小指にかけてしびれが出る
治 療
皮膚を切開後、尺骨神経を見つけだし、それを圧迫している筋膜を切開

神経を圧迫している筋膜を切開する

手背アミロイドーシス

手指の伸展障害や腫瘤が見られる

 背側手根靭帯(はいそくしゅこんじんたい)は、指を伸ばす紐(伸筋腱)を束ねており、別名伸筋支帯と呼びます。この伸筋支帯にアミロイドが沈着して起きるのが手背アミロイドーシスです。
 立ち上がろうとする時、普通は手のひらを付いて立ちます。ところが手の裏が痛くなると、手をグーにして立ち上がります。このような方は手の裏にアミロイドがたまっている可能性が高いといえます。また、親指の手首の靭帯にアミロイドがたまると、親指を反らすことができなくなります。

症 状
  • 手の甲の痛み
  • 手首に瘤のようなものができる
  • 親指、手首が後ろに反らない
  • 立ち上がろうとして手をつくと手の裏が痛い
  • 親指を伸ばそうとすると、指の付け根が痛い

厚くなった伸筋支帯を切開

治 療
治療によって手首の可動域が広がった

 皮膚を3〜4cm切り、アミロイドが沈着し厚くなった伸筋支帯をハサミで切開します。手首や親指が後ろに反ることを確認してから、皮膚を縫合し手術終了です。
 手の裏のアミロイド症は神経が圧迫されませんので、痛みというより手や指が反らないことにより、日常生活にどの位不自由があるかで手術をするかどうか決定します。