透析アミロイドーシスのすべて

09透析アミロイドーシスのまとめ

「透析アミロイドーシスのすべて」の連載も今回で最終回となります。

解説してきた疾患は手根管症候群、肩関節症、ばね指、肘部管症候群、手背アミロイドーシス、透析脊椎症の六疾患です。できるだけ図や写真を掲載し、予備知識がなくとも理解できるように書いたつもりです。

さて今回は、私のクリニックにおける透析アミロイドーシスの手術統計と、初回の連載でも触れましたが、透析アミロイドーシスの予防のために何が必要かということを考えてみたいと思います。

透析アミロイドーシスの手術統計

私のクリニックは平成20年6月に開院しました。平成24年12月までの4年7ヶ月で施行した手術件数を表1に示します。透析脊椎症の手術はしておりませんので、五疾患の手術件数になりますが、透析アミロイド関節症の三大疾患は、手根管症候群、肩関節症、ばね指であることがわかります。

表2には当院で手術した患者さんの住所の分布を示します。クリニックの所在地の愛知をはじめ、東海3県が半分以上を占めていますが、北海道や沖縄の遠隔地から受診された方もおられます。

表1 当クリニック手術件数(H20 年6月〜H24 年12月)
手根管開放術1328
烏口肩峰靭帯切除術453
腱鞘切開術(ばね指)2274
肘部管開放術36
手背、伸筋支帯切開術36
総計4127件 

表2 患者さんの分布数(H20 年6月〜H24 年12月)(名)
愛知1112岐阜218三重164
静岡116長野24山梨6
福井6富山19
奈良72滋賀72大阪36
兵庫34京都7和歌山4
鳥取1徳島1
福岡3大分1沖縄1
千葉5東京5神奈川3
埼玉2北海道1

透析アミロイドーシスの予防

連載の初回でも書きましたが、アミロイド繊維の前駆物質はβ2-microglobulin(β2-m)でおもにリンパ球の表面に存在します。β2-mの99%は尿細管上皮で分解されるため、腎機能が低下するとβ2-mは体内に蓄積されます。さらにβ2-mの分子量は11,800であることより、通常の透析では除去の効率が高くありません。そのため、透析患者では体内にβ2-mが蓄積され、透析アミロイドーシスが発症するわけです。

β2-mの体内での蓄積を防ぐためには、β2-mの産生を抑制することと除去効率を高めることの両面から考える必要があります。その対策を表3、4にまとめました。

表3、4からいえることは、透析アミロイドーシスの進展予防については、医療サイドが良質な透析を提供する責任があるということかと思います。

表3 透析によるβ2-mの除去性能向上
  • ① 高性能膜(high performance membrane)
  • ② 血液濾過透析療法(HDF)
  • ③ 透析時間の延長、血流量を増加し透析量を増大
  • ④ β2- m の吸着カラム(リクセル)の使用

表4 透析時のβ2-mの産生抑制(リンパ球の活性化予防)
  • ① 生体適合性のよい透析膜の使用
  • ② 透析液の清浄化(エンドトキシン濃度を低減化)

最後に

私は透析科医として、20年近く前、日赤医療センターの奥津先生(現、おくつ整形外科院長)に手根管症候群の内視鏡手術の指導を受け、現在では、透析アミロイドーシスの手術を専門にしています。あの時、親切に技術指導していただいた奥津先生の気持ちにこたえるためにも、内視鏡治療を中心にした透析アミロイドーシスの治療を普及させる必要を痛感しています。

透析アミロイドーシスの手術を受けるために、私のクリニックに遠隔地から患者さんが足を運んでくれます。これは裏をかえすと、透析アミロイドーシスの手術をする医療機関の数が少ないということです。長期透析になればなるほど、歩行もままならず、地元の医療機関にしか、かかれない患者さんも多いのです。

確かに透析アミロイドーシスの歴史は浅く、どのような疾患にどのような手術をするべきか、医学書にも記載されていないこともあります。その上、透析を受けているということで出血や感染のリスクは一般の患者より高いかもしれません。しかし、細心の注意を払い、経験をつめば、手術合併症のリスクは減らすことができます。

関節の痛みや運動障害のため、生活に支障のでている患者さんの生活の質を改善するためにも、透析医療関係者や整形外科関係者の中から、透析アミロイドーシスに関心を持ち、治療を積極的に行う先生が一人でも多く出現することを願っています。

最後に、長い間私の連載につきあっていただいた読者の皆様、執筆の機会を与えてくださった編集部の皆様に感謝いたします。

一口メモ

手根管症候群や肩関節症の手術をする時に、術後に再発しないのかという質問を受けることがあります。原因がアミロイドの沈着によるものですから、残念ながら再発の可能性はあります。

肩関節症は、手術後より肩のストレッチを指導していますが、しっかりストレッチを継続している方の再発はほとんどありません。その理由は肩のストレッチにより、烏口肩峰靭帯の切除部分が開大し、切除断端の癒合を防止できるからです。肩のストレッチは肩関節の拘縮を防ぐため、肩関節症の発症予防にも有効です。

手根管症候群については、私が初回の手術をした透析患者さんの再発率は5%程度で、平均再発期間は5年でした。手根管症候群の積極的な予防策は現状ではないのですが、しっかりした透析をすることにより、発症率や再発率が低下することが期待されます。

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